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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)4784号 判決 2000年11月14日

東京都中央区銀座八丁目二一番一号

原告

株式会社竹中土木

右代表者代表取締役

北原孝教

右訴訟代理人弁護士

藤井榮二

渡邊俶治

大阪市西区北堀江三丁目一一番二一号

被告

株式会社竹中土木分室

右代表者代表取締役

西浦龍太郎

右訴訟代理人弁護士

家郷誠之

主文

一  被告は、その営業上の施設又は活動に「竹中土木分室」の表示を使用してはならない。

二  被告は、その所有する看板、広告その他営業表示物件から右表示を抹消せよ。

三  被告は、大阪法務局平成一〇年一二月三日付をもってした被告の設立登記のうち「株式会社竹中土木分室」の商号の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、昭和一六年に建設・土木工事の請負並びに設計監理を主たる事業目的として設立され、資本金七〇億円、平成九年度売上高一五六〇億円を有する株式会社である。また、原告は、大手建設業者として知られる株式会社竹中工務店(以下「竹中工務店」という。)の一〇〇パーセント子会社であり、竹中工務店を中心とする竹中グループにおいて、主として道路・ダム・架橋部門を担当している。

原告は、「竹中土木」の表示(以下「原告表示」という。)を使用して営業活動をしており、原告表示は、日本国内において取引者及び需要者の間で、原告の営業を表示するものとして著名である(弁論の全趣旨)。

2  被告は、大阪市西区北堀江三丁目一一番二一号に本店を置き、商号を「株式会社竹中土木分室」(以下「被告商号」という。)、事業目的を<1>株式会社竹中工務店及び株式会社竹中土木の土木建築工事の請負及び設計、施工並びにコンサルティング業務、<2>土木建築材料、土木建築用機械の販売及び賃貸、<3>砕石、砂、砂利、土石類の採取及び販売、<4>前各号に付帯する一切の事業として、平成一〇年一二月三日大阪法務局に設立登記し、間もなく、大阪市中央区谷町三丁目二―八所在のビル一階壁面に、「竹中」の文字をデザイン化した原告の社章(以下「原告標章」という。)と同一の標章とともに、「株式会社竹中土木分室」「TAKENAKA DOBOKU Co,LTD」と表示したパネル板を設置して営業を開始し、「竹中土木分室」の表示(以下「被告表示」という。)を使用して営業を行っている(甲一〇の1、2)。

被告は、平成一一年三月一三日、前記谷町三丁目のビルの表示及びパネル板を撤去した。東京都江東区富岡一丁目二番地三所在の事務所看板には、「株式会社竹中土木分室」の看板が設置されている(甲一四)。

二  原告は、被告商号及び被告表示(以下「被告営業表示」という。)は、原告の商号と同一若しくは著しく類似した商号の使用であり、被告の営業活動と原告の営業活動との誤認混同を生じさせているとして、不正競争防止法二条一項二号、三条又は商法二〇条、二一条に基づき、被告表示の使用禁止及び被告商号の抹消登記手続を求めた。

三  争点

1  被告営業表示は原告の商号ないし原告表示と類似し、被告の営業活動と原告の営業活動との誤認混同を生じさせるものか。

2  被告は、原告及び竹中工務店から、被告営業表示の使用について許諾を受けていたか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1について

【原告の主張】

被告営業表示は、原告の商号ないし原告表示と類似し、誤認混同を生じさせるものである。

不正競争防止法二条一項二号の目的は、他人の著名な商号を使用し、著名表示の表示機能(自他識別機能・広告宣伝機能・品質保持機能)を冒用しあるいは不当にこれを侵害する行為を禁止する趣旨であって、被告が第三者を誤認混同させて受注を獲得しようとする意図を有していたかどうかは要件ではない。

【被告の主張】

被告は、原告及び竹中工務店が発注する土木建築工事の請負等を目的として法人組織を発足させたものであり、他の発注者から原告と被告を誤認混同させて受注を獲得しようという不正競争の意思はない。

被告代表者西浦龍太郎は、平成一〇年九月ころ、亡父西浦勲の友人であった森実が福井県内で特別老人養護ホーム白楽荘の建設を計画していることを知り、森の事務所に日参し、現地の施設に何度も足を運び、竹中工務店の工事内容の優秀さを説明して、右工事を竹中工務店に発注して欲しいと依頼した。その結果、同年九月末ころ、森が竹中工務店に連絡し、交渉が順調に進展し、入札の結果、同年一一月一六日竹中工務店が右工事を受注することとなった。このように、被告は、竹中工務店のために営業活動を行ったものであり、受注者たる森から原告ないし竹中工務店と被告を誤認混同させて受注を獲得しようとしたものではない。

二  争点2について

【被告の主張】

1 被告は、原告及び竹中工務店から、被告商号及び被告表示の使用について許諾を受けていた。

2 西浦勲は、株式会社萬興産(以下「萬興産」という。)の代表者であったが、原告及び竹中工務店の専属下請として、工事を受注する傍ら竹中グループの業務に関連して発生するトラブルの処理を担当し、三宮センタービルヂング問題(三宮センタービルヂング株式会社所有の商店街の用地買収)をはじめとする問題を解決するなど、竹中グループに多大の貢献があった。萬興産は、この功績により、約二〇年前、竹中グループの当時の実力者であった大橋専務から、東京都千代田区のホテルニュージャパン内の一室を事務所として提供され、同所に「株式会社竹中土木分室」と「株式会社萬興産東京支店」を併記した木製看板を掲示し、同看板に原告標章を併記することの許諾を受けた。

3 萬興産は、右許諾に基づき、原告から貸与されたホテルニュージャパンの一室の入口に、原告標章、「株式会社竹中土木分室」及び「株式会社萬興産東京支店」を併記した木製看板を掲示使用してきた。その後、ホテルニュージャパンが火災に遭ったので、右事務所は、原告が他から貸借して萬興産に転貸した東京都港区西新橋のアガタビルに移転し、平成元年一〇月三一日、原告が株式会社一楽から貸借して萬興産に転貸した建物に移転した。萬興産は、これらの事務所においても、原告標章、「株式会社竹中土木分室」及び「株式会社萬興産東京支店」を併記した木製看板を掲示使用しており、原告及び竹中グループから看板の掲示、使用について苦情が出たことはなかった。

4 西浦勲の息子である西浦龍太郎は、平成一〇年萬興産の代表取締役に就任し、萬興産が原告から商号使用の許諾を受けていた「株式会社竹中土木分室」なる法人を現実には設立していなかったことから、同人が中心となって被告を設立した。西浦龍太郎は、被告の設立について原告の許諾を受けていないが、商号使用の許諾を受けた者が右商号の法人を設立する権限を有することはいうまでもない。

【原告の主張】

原告が萬興産に対し、原告が賃借して使用中のホテルニュージャパンの一室を転貸使用させた経緯は、次のとおりであり、原告は、自己が賃借した物件につき賃借名義人の表示として自己の名称を掲示する範囲ではやむを得ないと考えていたにとどまり、その範囲を超えて、被告に対し、原告の商号使用を許諾することなどあり得ない。すなわち、

1 原告は、昭和五二年一一月、ホテルニュージャパン八六三号室を借り受け、元国会議員の訴外宇田哲朗に使用させていたが、その際、同室の賃借人が原告であることを明確にするため、「株式会社竹中土木分室」のプレートを表示していた。原告は、昭和五三年ころ、宇田が同室を退去したことから、当時東京進出を企図していた西浦勲の依頼により、同人に対し、「株式会社竹中土木分室」の看板が設置されていた部屋をそのままの状態で使用することを許諾したものであり、同人に対し、原告の商号及び標章の使用を許諾した事実はない。ホテルニュージャパンの一室の「株式会社竹中土木分室」のプレートは、元々原告が設置していたものであり、被告の掲示、使用とは無関係である。

2 昭和五七年二月八日、ホテルニュージャパンが火災により焼失したため、萬興産に対する使用貸借は消滅したが、萬興産から、萬興産名義での事務所の賃借は困難であるので、原告が他から建物を借り受け、それを萬興産に転貸する方法により事務所を設置したいとの協力要請を受けた。そこで、原告は、昭和五七年三月一七日、港区西新橋所在のアガタビルにつき、所有者有限会社アガタ商会との間で賃貸借契約を締結してこれを借り受け、同年四月二日、原告と萬興産の間で転貸借契約を締結した。同ビル表の看板には、「株式会社萬興産東京支店」と表示され、二階部屋入口のガラス部分には「竹中土木分室」「萬興産東京支店」の文字が上下二段に掲示されていたが、原告は、原告名の表示は、同ビルの賃借名義人の表示として掲示する範囲ではやむを得ないと考えていたにすぎず、萬興産にその名称使用を許諾したものではない。

3 平成元年八月、萬興産から、賃料が高いので他の場所を借りて欲しいとの申入れがあり、原告は、アガタビルの転貸借契約を解除した。原告としては、その機会に萬興産との関係を清算しようとしたが、萬興産の強い要望により、同年一〇月三一日、被告代表者の母が代表者をつとめる株式会社一楽から原告が建物を賃借して、再び萬興産に転貸するという契約関係になった。

第四  当裁判所の判断

一  争点1について

被告商号「株式会社竹中土木分室」のうち、「株式会社」の部分は、会社の種類を表す語句であり、被告営業表示のうち、「分室」の部分は、官庁・会社などの本部から分かれて作られた事務所を意味する(岩波書店・広辞苑第五版二三八四頁)ものであるから、被告営業表示の要部は、原告表示と同一の「竹中土木」にあるというべきである。したがって、被告営業表示が全体として原告表示に類似することは明らかであり、被告が被告商号の会社を設立し、被告表示を利用して土木工事等の営業活動を行うことは、不正競争防止法二条一項二号にいう「自己の商品表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用」する行為に該当する。

この点につき、被告は、被告には、原告又は竹中工務店と被告とを誤認混同させて受注を獲得しようという意思はなかったと主張する。しかし、他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用する行為は、混同を要件とすることなく不正競争とされるのであるから、仮に被告に誤認混同の意思がないとしても、そのことをもって、被告営業表示の使用が不正競争防止法二条一項二号に該当しないとすることはできない。また、被告の主観的意図は措くとしても、被告営業表示は、原告の商号ないし原告表示に「分室」の文字を付加したものであるから、原告の関連会社、グループ会社であるとの印象を需要者、取引者に与え、誤認混同を生じさせるものであることも明らかである。

二  争点2(原告は被告に被告営業表示の使用を許諾したか)について

1  証拠(甲一七ないし二一、二三、二四の1ないし6、乙七の1、2、八、一一、一二、被告代表者本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 訴外日本企業株式会社は、昭和五二年一月二四日、ホテルニュージャパンとの間で、同ホテル八六三号室についてホテル施設利用契約を締結し、これを宇田に使用させた。原告は、同年一一月一五日、八六三号室につきホテルニュージャパンとホテル施設利用使用契約を締結し、宇田と同室の利用について転貸借契約を締結した。その際、部屋の表示は「株式会社竹中土木分室」とすることになり、ホテル利用契約が開始された同年一二月一日から、八六三号室入口にホテル側が用意した「竹中土木分室」の看板プレートが掲示された。

(二) 原告は、昭和五三年二月から、西浦勲が代表取締役をつとめる株式会社萬屋(萬興産の旧商号)に八六三号室を転貸した。西浦勲は、株式会社高島屋の総会屋対策を担当していたいわゆる会社側の総会屋であり、竹中工務店の大橋専務と親交があったことから、大橋専務の紹介で右転貸借契約を締結することになった。ホテルニュージャパンは、昭和五七年二月焼失したが、萬興産は、自社の名前で新しく事務所を借りることが難しいことから、原告に協力を求め、同年三月、原告が西新橋のアガタビルの二階部分を賃借して萬興産に転貸した。アガタビルの事務所には、入口のドアに「株式会社竹中土木分室、株式会社萬興産東京支店」の表示があり、ビルの入居者看板に「(株)萬興産東京支店」、ビルの外側の壁にかかった看板に「株式会社萬興産東京支店」の表示があった。萬興産は、平成元年八月、アガタビルを退去することとなったので、原告はアガタビルの賃貸借契約を解除し、同年一〇月三一日、被告代表者の母が代表者をつとめる株式会社一楽との間で建物賃貸借契約を締結し、右建物について、萬興産と転貸借契約を締結した。この事務所には、勝手口の入口に「株式会社竹中土木分室」の名札が出ていたが、平成二年九月に建物が取り壊され、そのころ、右転貸借契約の対象となる物件はなくなった。

(三) 萬興産は、その後も、滅失した建物に隣接する建物に「株式会社竹中土木分室」の名札を出して、竹中工務店及び原告を含む竹中グループから下請工事を受注したり、竹中グループのために用地買収交渉を行っていた。原告は、平成七年ころから、萬興産に対し、転貸借契約の解約を申し入れるようになったが、萬興産はこれに応じなかった。しかし、平成八年六月、いわゆる高島屋利益供与事件により、西浦勲が逮捕されたことから、原告は、転貸借契約解除の要請を一時的に控え、竹中グループが萬興産に対して工事を発注することもなくなった。平成一〇年三月、高島屋事件で西浦勲に判決があった。原告は、同年四月から、萬興産に対し、転貸借契約解除の要請を再開したが、西浦勲は同年五月二六日死亡した。

2  前記1で認定した事実によれば、原告は、昭和五二年二月ころから、萬興産に対し、原告が賃借した建物を三回にわたり萬興産の事務所として転貸し、萬興産は、右建物に「株式会社竹中土木分室」の表示を付していたこと、原告は、平成七年ころ転貸借契約の解約を申し入れるまでは、転貸借契約の対象建物が平成二年九月ころには既に滅失していたにもかかわらず、萬興産が事務所建物に「株式会社竹中土木分室」の表示を付すことに異議を述べていなかったことが認められ、右事実によれば、原告は、遅くとも平成七年ころまでは、萬興産に対し、原告が賃借して萬興産に転貸した事務所の建物に「株式会社竹中土木分室」の表示を付すことを少なくとも黙示的に許諾していたということができる。

しかし、原告又は竹中工務店が、萬興産又は西浦勲に対し、萬興産の営業一般を表す表示として、「竹中土木分室」の表示を使用することを許諾したと認めるに足りる証拠はなく、まして、原告が、萬興産又はその代表取締役となった西浦龍太郎に対し、「株式会社竹中土木分室」の商号を有する法人を新たに設立することを許諾したことを認めるに足りる証拠はない。かえって、萬興産は、従来、土木工事や土地売買仲介等の業務を行う際に「萬興産」の営業表示を用いており(乙五の1ないし22、六の1ないし48)、「竹中土木分室」の営業表示を用いた形跡はないことを考慮すれば、原告が萬興産又はその代表取締役に対し、同社が営業を行うに当たり、「竹中土木分室」の表示を使用することを認めたものとは考え難い。

この点につき、被告代表者本人尋問の結果中には、竹中グループの実力者であった大橋専務が西浦勲に対し、「竹中土木分室の看板を持っているのはおまえだけだ。看板外すなよ。」と発言するのを被告代表者が聞いたという部分がある。しかし、仮に、大橋専務が右のような発言をしたことがあるとしても、一専務の発言をもって、原告若しくは竹中工務店が、会社の意思決定として、萬興産若しくは西浦勲に対し、会社の重要な財産である原告表示と類似する「竹中土木分室」という営業表示を用いて工事の請負、設計、施工等の事業を行うことを許諾したと解することは到底できないし、大橋専務にそのような重要財産の処分を単独で決定し得る権限があったと認めるに足りる証拠もない。したがって、右発言は、単に大橋専務と西浦勲の間の深い親交を表す言葉にすぎないと見るのが相当である。被告代表者本人尋問の結果のうち、前記認定に反する部分は、伝聞に基づくものであり、信用することができない。

よって、争点2に関する被告の主張は採用できない。

三  以上によれば、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝)

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